読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

鞠二月二日堂

詩と芸術のブログ

ディキンソン 「お別れはしないでおきましょう」 We'll pass without the parting

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第8回「お別れはしないでおきましょう」 We'll pass without the parting(996番 1865年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート ※ 『ディキンスン詩集』…

夕暮れの森だった

夕暮れの森だった。不運はどこにでも舞い降りるものらしい。茜色の空から突如飛来したドッジボールに当たって女は倒れた。額から血が流れて意識を失った。担架で運ばれてゆく女に付き添ったのは妹だった。この世界が神さまの夢なら、姉の口癖をまねて語りか…

未来の蟻たち

街路樹の幹に一匹の蟻を見つけた。蟻たちは時空を巡り〈小さなものたち〉を集めてまわる。あの日のぼくの夢―情熱も、こんなふうに蟻たちに運ばれていったのだろうか? 1万6000年後の未来の蟻たちがきみたちに語りかける。 〈時がすぎてゆくというのは世界が…

ディキンソン 「詩人はランプに火を点すだけ――」 The Poets light but Lamps —

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第7回「詩人はランプに火を灯すだけ――」 The Poets light but Lamps —(883番 1864年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート 既存の解説について ※ [ ]…

ディキンソン 「わたしが死へと立ち止まれなかったので――」 Because I could not stop for Death —

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第6回「わたしが死へと立ち止まれなかったので――」 Because I could not stop for Death —(712番 1863年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート ※ [ ]…

学校奇譚

わたしの通うM高校の保健室は日々成長しているらしかった。単純にベッドの数が増えているということではなくて、原生動物が養分を捕食するように隣室を浸食しながら室内の構成要素を有機的に変化させているようなのだ。静寂に満たされた空間とは対照的なめ…

辺境の街

コンクリートで舗装された細い坂道を上がってゆく。粗末な民家の軒下に髪を緑に染めた女が立っていた。なにかに憑かれたように前方を凝視している。あまりに透明な眼差しは見えるものすべてを素通りしてしまう。石段の横では髪を紫に染めた青年が鳶色の毛布…

ディキンソン 「百年の後には」 After a hundred years

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第5回「百年の後には」 After a hundred years(1147番 1869年頃)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート ※ 『ディキンスン詩集』新倉俊一訳・編――安藤一…

世界平和会議

昨夜まで降りつづいた雨は上がり、路地にはいくつもの水たまりが出来ていた。R旅館の前で、わたしたちは先生を待っていた。 「Yさん、先生来ますかね? 夢のお告げなんでしょ」 「お告げなんでしょうか? わたし、よく分からないんです」 「先生が、ここで…

楽しいことが好きだった

楽しいことが好きだった いつの頃からか楽しくなくなった夜明け前に目覚めた 窓辺の植物がいつもとは違って見えたここに来てから自分であって自分ではないような感覚がある部屋の主は長期の不在 わたしはそのひとの身代わりなんだ明るくなったら植物の世話を…

神さまの夢

縁日の帰りだった。Aは綿飴を食べていた。奇妙な既視感があった。Aがこれから語ることを、ぼくはありありと思い出していた。 ぼくたちが神さまの見ている夢の登場人物だとしたら? ぼくたちに神さまとの不思議な出会いがあるのは、ぼくたちが神さまの夢の…

ディキンソン 「言葉は死んだ」 A word is dead

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第4回「言葉は死んだ」 A word is dead(1212番 1872年頃)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート ※ 『対訳 ディキンソン詩集』亀井俊介編(岩波文庫)を…

エミリー・ディキンソン 詩と時代~年譜

エミリー・ディキンソン Emily Dickinson (1830-1886) アメリカ合衆国の詩人。生前に発表(印刷)された詩は匿名での10篇だけだったそうです。彼女の死後、その詩はおおくのひとに支持されてゆき、いまではホイットマンとならんでアメリカを代表する詩人の…

旅の記憶

旅の途中で友人が怪我をした。旅をつづけることが出来なくなった。海の近くに小さなアパートを借りて二人で暮らしはじめた。夜になると食卓に蝋燭を灯して、水平線から昇る月を眺めながら食事を楽しんだ。元気になったら、また旅をしよう。 「きみには聞こえ…

ポー 「ユーラルーム 」 Ulalume 《2》 翻訳ノート

エドガー・アラン・ポー「ユーラルーム」《1》 日本語訳 解説 からの つづき(ポーの目次はこちら)。 「ユーラルーム」は語りのトーン(詩に相応しい語りの調子)をつかむのに思いのほか時間がかかった。当初、ポーの他の詩と同じ感覚で訳していたのだけど…

毛糸の帽子

みんなが毛糸の帽子を持っていた。わたしだけが、まだ持っていなかった。先日、やはり毛糸の帽子がほしくなって近所のスーパーマーケットに買いに出かけた。いろいろ迷って、チョコレート色の地に白いステッチの幾何学模様が入ったものを選んだ。 翌朝、毛糸…

ポー 「ユーラルーム 」 Ulalume 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第7回「ユーラルーム」 Ulalume (1847)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝わるように表現を工夫しながら、自由なイメージで…

ディキンソン 「鳥たちの夏よりさらに晩く」 Further in Summer than the Birds

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第3回「鳥たちの夏よりさらに晩く」(鳥たちよりもさらに夏おそく) Further in Summer than the Birds(1068番 1866年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳…

不思議だと思いませんか?

不思議だと思いませんか?世界はわたしたちにむかってなにも説明しません世界がわたしたちに理解されないと嘆くこともありません世界はなにかを問いかけることがなく なにかを探すこともしませんそれなのに (それなのに……)わたしたちはいつだって理由を探…

T.S.エリオット 「荒地」 チェスのゲーム A Game of Chess 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922)から「チェスのゲーム」 A Game of Chess 日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 ※ [ ]は、わたしの補足です。「 」が閉じ…

先生

午後四時十五分、作家のO先生と都心から特急列車〈てまり〉に乗った。Y駅で降車。はじめて訪れる街だった。先生は何度か訪れたことがあるらしかった。長く伸びてゆく影を追いかけるようにポプラの並木道を歩いた。 大きな噴水のある公園のベンチに先生と並…

蛇遣い

ひとつの研究が終わると、どうにも落ち着けない。休暇もそこそこに、あらたな研究課題を模索した。それまでのノートを読み返して選んだのは「蛇遣い」だった。 作家Mは廃校になった中学校の講堂を書斎として使っていた。十万冊の蔵書と三万枚のレコードがひ…

情景

白いリンネルのシャツを着て きみは直立した姿勢のまま夢を見た真昼の青空に休むことなく回りつづけていたのは巨大な風車だった地中深くから汲みあげられた水が乾いた大地の球根を育てた 遠い街だった 骸骨たちの乗り合いバスが次の交差点を曲がるとき水たま…

T.S.エリオット 詩と人生~年譜

T.S.エリオット Thomas Stearns Eliot (1888-1965) イギリス(生まれはアメリカ合衆国)の詩人、劇作家、評論家。1922年に発表された代表作『荒地』は、後の文学界に大きな影響を与えた。 詩 目次 エリオットの詩の日本語訳(原詩、解説、翻訳ノート付き)…

T.S.エリオット 「ゲロンチョン」 Gerontion 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット「ゲロンチョン(小さな老人)」 Gerontion (1920)日本語訳と解説(エリオットの詩の目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 ※ 原詩の行の配列をほぼ維持して訳しています。内容の把握がむつかしいところもあ…

箱男

箱男は走ることにむいていない だから今日もゆっくり歩く夏は暑く 冬は寒い でも住処をなくす心配だけはしなくていい箱男の半透明の小さな窓にも夕暮れの光が差し込む 鴉が鳴いた手帳を開き思案する あなたは涙の隠し場所を執拗に探していた誰からも隠されて…

ディキンソン 「わたしは誰でもないひと! あなた 誰?」 I'm Nobody! Who are you?

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第2回「わたしは誰でもないひと! あなた 誰?」 I'm Nobody! Who are you? (288番 1861年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート ※ 『対訳 ディキンソ…

ディキンソン 「わたしは〈美しさ〉のために死んだ――けれど」 I died for Beauty — but was scarce

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第1回「わたしは〈美しさ〉のために死んだ――けれど」 I died for Beauty — but was scarce (449番 1862年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート ※ 『対…

レエン・コオト

長椅子の上の眠りは温かなチョコレートのように溶けて、わたしたちの夜が来る。そうだ! 大切な約束があった。 いくつもの小さな矩形に仕切られた陳列棚をじっと見つめた。なにが収められているのかは暗くてよく分からない。墨色のヴェールをまとった不定形…

青の故郷と糸の鶴

高校二年の春にクラス委員長に選任された。それが原因とも思えないのだが、浮遊感を伴う眩暈に悩まされるようになった。真夜中に部屋の電気を消して星空を眺めてみても、以前のようにわくわくしない。 午前の授業を無難にやりすごしたとしても午後の授業はど…

ご無沙汰しております

ご無沙汰しております。こちらもずいぶんと様変わりしましたね。機械仕掛けの商業都市は怖れを知らない子供のようです。 いえ、迷ったりはしませんでしたよ。並木の落とす影が行き先を指し示してくれましたから。そこから先の路地のことはよく覚えています。…

T.S.エリオット 「荒地」 死者の埋葬 The Burial of the Dead 《2》 翻訳ノート

T.S.エリオット『荒地』死者の埋葬 《1》 日本語訳 解説 からのつづき(『荒地』 日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 翻訳ノート 死者(失われたものたち)を巡るイメージは鮮明で迷うことはなかった。 1~18行 春~冬~夏のパート 春のパート、…

水の街 序

ひさしぶりに水の街を訪れた。海抜〇メートル、黒い水の流れに帰ってきたという安堵があった。 予約を入れておいた老舗旅館「睡蓮」にむかう。街には橋がひとつもないので(どうしてだろうね?)水路で隔てられた隣の区画には、渡し船でゆくことになる。宿泊…

怖い家

明るい灰色の夕暮れだった 自転車に乗って怖い家にゆく住宅街を離れた国道沿い 二階建ての民家が休耕田にかこまれて時代に見放され世間に忘れられた高度経済成長期の遺骸のようにぽつんと建っていた 草が生い茂る荒れた庭 閉め切られた雨戸不気味なシミが浮…

T.S.エリオット 「荒地」 死者の埋葬 The Burial of the Dead 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922)から「死者の埋葬」 The Burial of the Dead 日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 ※ [ ]は、わたしの補足です。「 」は原…

T.S.エリオット 「荒地」 題辞と献辞 Epigraph and Dedication

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922) から、題辞と献辞の日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 日本語訳 原文 解説 翻訳ノート ※ 『荒地』岩崎宗治訳(岩波文庫)を翻訳と解説の参考…

メランコリック・ミステリー・ゲーム

公園の近くで蟻の行列を見つけた じっと眺めているとがんばるぞ~ぉ と声がした ふり返ってみたけれど誰もいないあれ? 気がつくと蟻の行列も消えていた どこいった? 「消えていったものたち」の身代わりになって街を散策したやがて歩き疲れてきた 馴染みの…

T.S.エリオット 「荒地」 The Waste Land

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922) 日本語訳(エリオットの目次と年譜はこちら)。 はじめに 『荒地』は、当時最先端の実験的手法、モダニズムのスタイルで描かれる。エリオットは、それぞれのパーツ(要素)を知的…

道は先々で分岐しているので

I 道は先々で分岐しているので つい迷ってしまうどれを選んでも結局は同じことだと理解したのは目的地に着いてからだった 世界は複雑なようでいて思いのほか単純なつくりになっている II 旅行の計画はいつも曖昧なものだから時間の経過もそれに合わせて自在…

ポー 「不穏な気配の谷」 The Valley of Unrest

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第6回「不穏な気配の谷」 The Valley of Unrest (1845)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 詩の主題 翻訳ノート ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝わるように…

ポー 「湖、……に」 The Lake — To ——

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第5回「湖、……に」 The Lake ― To ―― (1827)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 日本語訳 原詩 解説 翻訳ノート 加島祥造の解説について ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝わるよ…

自転車とチョコレート

愛用の帽子を被って自転車に乗った 海へゆこういつもの道は工事中だった 迂回路の案内にしたがったむむ? 道に迷ってしまったみたい 森の小路だったこまったな…… 民家をみつけた 道を訊ねてみよう自転車では無理みたい 不安定な石段をこわごわ下ったあれ? …

胸を小さな蛇に噛まれた

胸を小さな蛇に噛まれた 救急病院に搬送された夜のむこうに ひとかたまりの黒い森が見えたそのまま息が止まってしまいそうな誘惑に こころが怯えた 夢のなかで懸命に活字を拾った 本を復元したかったランプを手許に引きよせる このページを仕上げてしまおう…

揺籠と残酷

シアンクレールで一杯のコーヒーを飲むぼくたちは木炭の素描のような街に暮らしていたぼくは心臓[heart]の色を探すように生きた 不意の出来事だった 青い煉瓦の壁が歩道に現れたそして 突然 崩壊する (戸惑いは悲しみに似ている)ぼくには踏み越えてゆく…

夢のパズル

I 紙のような薄さでパズルの隙間に消えていったピエロあら 気がつきませんでした ここで死んでいたのですか?いえ 死に乗り遅れたんです ただ それだけですよ II いつからだろう? 暗さのなかで撚られた情景だった死者たちの見忘れた夢が わたしたちの夢にす…

つよく見つめるとたちまち崩れてしまう

つよく見つめるとたちまち崩れてしまう夕暮れだった 海沿いのレストランから黒煙が昇っていた取り残されたひとがいるらしい あなたの知っているひと?世界にはさまざまな死がある 消防車の赤は好きな赤じゃない旅の途中でメガネを壊してしまった いつも臆病…

死の国

古風な旅館の渡り廊下から 冬の川の眺めを楽しんだ空想的なものは すり減ることがないという 素敵だねただときおり姿を隠してしまう どこにいったのかなあ?折り紙の匂いがした 鈴の音 壁の漆喰は淡い緑色だった眼差しは限りなくゼロに近い薄さだった 誰の死…

急勾配の階段だった

高台のサボテン公園から出てきた男が急勾配の階段を下りていたその途中に錆びた線路が横切っている この踏切は要注意なんだいっけん廃線に見えるだろう でもそうじゃない 油断は禁物警報器が鳴らなくても快速列車が通過することがある 危ないよ孤独と不安の…

リルケ 「オルフェウスへのソネット」 Die Sonette an Orpheus

海外の詩の翻訳シリーズ。 ライナー・マリア・リルケ Rainer Maria Rilke 『オルフェウスへのソネット』(オルフォイスに寄せるソネット) Die Sonette an Orpheus(1922) 日本語訳(第1部 I~IV、第2部 I, III, XII)。 はじめに 『オルフェウスへのソネッ…

きみの眼差しがぼくに接ぎ木した

きみの眼差しがぼくに接ぎ木した実存を称えて歌う思索の階段をどこまで昇ればいい? 人間存在を俯瞰する実存哲学の記念碑は 空のきみに届けとぼくは願った (自己の消滅 残り香 神の名前) 春だった 童話の大地に育つ若葉をぼくは愛そうとしたそのとき 永遠…

鞠二月二日堂