鞠二月二日堂

詩と芸術のブログ

死の国

古風な旅館の渡り廊下から 冬の川の眺めを楽しんだ空想的なものは すり減ることがないという 素敵だねただときおり姿を隠してしまう どこにいったのかなあ?折り紙の匂いがした 鈴の音 壁の漆喰は淡い緑色だった眼差しは限りなくゼロに近い薄さだった 誰の死…

急勾配の階段だった

高台のサボテン公園から出てきた男が急勾配の階段を下りていたその途中に錆びた線路が横切っている この踏切は要注意なんだいっけん廃線に見えるだろう でもそうじゃない 油断は禁物警報器が鳴らなくても快速列車が通過することがある 危ないよ孤独と不安の…

きみの眼差しがぼくに接ぎ木した

きみの眼差しがぼくに接ぎ木した実存を称えて歌う思索の階段をどこまで昇ればいい? 人間存在を俯瞰する実存哲学の記念碑は 空のきみに届けとぼくは願った (自己の消滅 残り香 神の名前) 春だった 童話の大地に育つ若葉をぼくは愛そうとしたそのとき 永遠…

昨夜 夢に見た光景だけが

昨夜 夢に見た光景だけが真実のように思われたパラフィン紙のように薄い掌ほどの雪の結晶が舞っていた指先に触れると少しの冷たさも残さずに幻のように消えた川沿いの道を友人と歩いていたはずだったいつからひとりなのだろう? 水の音を聞こう 河川敷に下り…

土曜日の放課後だった

土曜日の放課後だった二階の教室の窓辺で友達と立ち話をしていた突然 電話が鳴った むかしの映画でしか聞いたことのないジリリリ ジリリリ という耳障りなベルの音だったすぐ後ろの席にダイヤル式の黒い電話機が置かれていた誰がこんなものを持ってきたのだ…

灰の列車

ずいぶんと長いこと歩いてきたこれから どちらに歩いていけばいい?ぼくたちは忽然と消えたように思われるだろう大地の裂け目から地下へと降りていった行き着いた先は廃棄された地下鉄のトンネルだった巨大な炎に焼かれたように すべてが黒く煤けていたかす…

悲しいことがあったので

悲しいことがあったので 飛行機で旅行にゆくことにした小さな映画館の茜色の椅子に腰掛けて旅行の計画を練った資金が乏しいので いちばん安い航空券を選ぶのがよいだろうそうすると直接目的地に飛ばないので乗り換えが必要になる乗り換えは好きじゃない 中継…

とある家の水槽のこと

案内された部屋は薄暗かった 大きな水槽が置いてあるモールのような水草が優雅にゆれていた ゆらりゆらり透明なパイプからは小さな泡が出ている ぷくぷくぷくこころがなごみますね きよらかな水っていいな ぼんやり見つめていたら…… あれ?水槽の水がみるみ…

熱くて濃い珈琲は

熱くて濃い珈琲は飲みすぎに注意しようふいに むかしのことが思い出されて なんだかつらくなるどうしてだろうね? (熱くて濃い珈琲は三日に一度にしよう)あの頃そうだったように (いつもそうだった)見ることの親密さのなかに こころが融けてゆく素朴があ…

21世紀の洗練された処刑機械 謎解き付き

国営の研究施設を思わせるコンクリートの細長い部屋では、複雑な仕掛けの自動機械が休むことなく稼働していた。誰もが知っている動物アニメのキャラクター(ネズミ)を連想させる透明なプラスチック製の〈頭部〉が銀の円盤に乗せられて、コトコトと手前から…

詩 鞠 紫月 Mari, Shizuki

詩の記録(詩作メモ付き) 2013年8月~ † 散文詩 目次 小さな区画だった 2019.05.19 夢の終わりに虹の橋を渡ってみる †2018.08.05 地下道をゆくのがよい †2017.08.20 夕暮れの森だった †2017.03.26 未来の千の蟻たち †2017.01.29 学校奇譚 †2016.09.18 辺境…

永遠のこと 四月 パウル・ツェラン

きみたち 永遠のことを知っていますか? 永遠がどれほどの大きさだったか 知っていますか? いまそれは 掌ほどに小さく折りたたまれてしまいました 桜貝の色をした爪の残酷がそうさせたのですか? 二十世紀は〈死と運命〉の私有物でしたか? セーヌの黒い水…

わたしは語りたいと思うのだ

わたしは語りたいと思うのだ なにかを指し示すためではなく なにかを引き継ぐためでもない さんざめく声たちとの交感のために 語りたいと思うのだ 昨夜見た夢が世界を浮遊させるさまを 語りたいと思うのだ わたしたちの〈生〉が束の間の歌曲のようなものだと…

いつの頃からか知っていた

木曜日だった スーパーマーケットに出かけた 棚に並ぶ小箱と瓶詰め 色鮮やかなパッケージたち 目移りするけれど いつも買うものだけをカゴに入れよう 他のものに手を触れるのはやめておこう (それは誰かの でもどこにも存在しない〈死〉を連想させる) いつ…

鞠二月二日堂