昨夜 夢に見た光景だけが
昨夜 夢に見た光景だけが真実のように思われた
パラフィン紙のように薄い掌ほどの雪の結晶が舞っていた
指先に触れると少しの冷たさも残さずに幻のように消えた
川沿いの道を友人と歩いていたはずだった
いつからひとりなのだろう?
水の音を聞こう 河川敷に下りていった
川の流れのなかに夜を見つけた こころの小さな王国がある
それは永遠に似ている 闇は深いほど遠くへゆける
そこでは きみの眠りとぼくの眠りを分けることは出来ない
誕生の場所で ぼくたちは醒めたまま夢を見ていた
詩作メモ
この詩は、安部公房『終りし道の標べに』真善美社版について深く考える過程から着想を得た。友人=きみの眠り=死者(永遠)として、そこから死を見つめるこころ(自殺)のイメージで受けとらないでほしい……
「川の流れ」は意識下の世界であり、そこでは互いが自他の区別のない夢(荘子が語った「胡蝶の夢」)のように存在している。
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