鞠二月二日堂

詩と芸術のブログ

ポー 「アナベル・リー」 Annabel Lee

 海外の詩の翻訳シリーズ。

 エドガー・アラン・ポー、第1回「アナベル・リー」 Annabel Lee (1849)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。

 ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝わるように表現を工夫しながら、自由なイメージで訳しています。解説、翻訳ノートとあわせてお読み頂けたらと思います。

 ※ 『対訳 ポー詩集』加島祥造編(岩波文庫)を翻訳と解説の参考にしました。

 日本語訳 アナベル・リー

 原詩 Annabel Lee

Annabel Lee
 Edgar Allan Poe

It was many and many a year ago,
 In a kingdom by the sea,
That a maiden there lived whom you may know
 By the name of Annabel Lee;—
And this maiden she lived with no other thought 5
 Than to love and be loved by me.

She was a child and I was a child,
 In this kingdom by the sea,
But we loved with a love that was more than love—
 I and my Annabel Lee— 10
With a love that the wingéd seraphs of heaven
 Coveted her and me.

And this was the reason that, long ago,
 In this kingdom by the sea,
A wind blew out of a cloud by night 15
 Chilling my Annabel Lee;
So that her highborn kinsmen came
 And bore her away from me,
To shut her up in a sepulchre
 In this kingdom by the sea. 20

The angels, not half so happy in Heaven,
 Went envying her and me:—
Yes! that was the reason (as all men know,
 In this kingdom by the sea)
That the wind came out of the cloud, chilling 25
 And killing my Annabel Lee.

But our love it was stronger by far than the love
 Of those who were older than we—
 Of many far wiser than we—
And neither the angels in heaven above 30
 Nor the demons down under the sea,
Can ever dissever my soul from the soul
 Of the beautiful Annabel Lee:—

For the moon never beams without bringing me dreams
 Of the beautiful Annabel Lee; 35
And the stars never rise but I see the bright eyes
 Of the beautiful Annabel Lee;
And so, all the night-tide, I lie down by the side
Of my darling, my darling, my life and my bride
 In the sepulchre there by the sea— 40
 In her tomb by the side of the sea.

 ※ 原詩は版によってカンマやダッシュ、字下げなどに違いがある場合があります。こちらでは『対訳 ポー詩集』で使われているテキスト Thomas Ollive Mabbott: Collected Works of Edgar Allan Poe, Volume I, Poems, 1969 に合わせました。

 ※ 理由は分かりませんが、ポーの死後出版された The Works of the Late Edgar Allan Poe, vol. 2, 1859 では、詩の最終行が In her tomb by the sounding sea に変更されています(こちらの版を掲載しているサイトもあります)。

 簡単な解説

 この詩は、ポーの死から2日後に地元新聞「ニューヨーク・トリビューン」に掲載された(ポーが最後に書いた詩)。

 「アナベル・リー」が持っているシンプルな言葉の連なりは、ただそれだけで美しい。詩に登場する美しい女性、アナベル・リーには、ポーの妻、ヴァージニアへの深い思いが託されているという。

 ポーは26歳のときに13歳のヴァージニアと結婚した。ふたりの関係はどこか兄と妹を思わせるものがあった(ポーは無垢な妹を愛するように妻を愛した)。ヴァージニアは、1847年、24歳の若さで結核により亡くなる。この詩は、妻の死から2年後の1849年に書かれ、その年にポーは世を去った。ひとが一生に一度だけ歌うことを許された詩があるなら、この詩がそうだと思う。

 翻訳ノート

 原詩は行の配列がしっかりとコントロールされてつくられている。日本語に訳す場合も、それに倣いたい。でも、これがむつかしい…… わたしの訳では、原詩に対して言葉を盛ったり、削ったりしながら、それぞれの行が日本語の詩としてのバランスを保つように工夫してみた。

1~6行 第1連

 1行目 many and many a year ago をどんなふうに訳そう(そのまま訳せば「幾年も、幾年もむかしの~」みたいなことだけれど…)。詩の全体を見わたしつつ最初に思い浮かんだのは「あれから、どれほどの月日が経ったのだろう」という「ぼく」の心情だった。でも、これだと長いし、いくぶん感情的にすぎる。あれこれ考えて、「ずいぶんとむかしのお話なんだ」としてみた(詩の世界に入っていきやすい言葉に工夫してみた)。

7~12行 第2連

 このパートでは「ぼく」とアナベル・リーがいかに深く愛しあっていたかが語られる。9行目 But we loved with a love that was more than love— は、原詩に倣って1行に「愛」を三つ入れるとやや鬱陶しい気がしたので、「愛よりも さらに大きく深く愛しあった」と訳してみた。

 加島祥造訳では、12行目 Coveted 「(他人のものを)むやみに欲しがった、切望した」が、気を利かせて「羨まれ、憎まれてしまった~」となっている。でも、ここは第4連の envy 「妬み、嫉妬」への伏線なので「憎まれて」は余計だと思う(手に入れたいと思う → 手に入れることが出来ないので妬む、の組み立てになっている)。

13~20行 第3連

 17行目 highborn は「高貴の生まれの、名門の」くらいの意味。19行目 sepulchre は「石や煉瓦でつくられた(複数の棺を納める)お墓、廟、墓所」(ラテン語で「埋葬する場所」)で、身分の高い人のお墓のイメージがある。アナベル・リーは一般の共同墓地よりもランクが上のお墓(墓所)に眠っているらしい。

21~26行 第4連

 23行目 Yes! 「そうなんだ!」が象徴するように、このパートから、最愛の人を失った「ぼく」の心理の領域へと詩が展開されてゆく。第3連で chilling 「(アナベル・リーを)凍えさせ~」とだけ表現されていたものが、第4連では chilling and killing 「(アナベル・リーを)凍えさせ、殺して~」となってることに注目しよう。非情な運命への憎しみが透けて見える。

27~33行 第5連

 こまかいことになりますが、32~33行目

Can ever dissever my soul from the soul
 Of the beautiful Annabel Lee:—

 のところは「ぼく」とアナベル・リー、ふたつの魂がくっついているのではなくて(くっついているものを引き離すのではなくて)、ふたつの魂が融けてあっているイメージで訳してみた。「(ひとつに融けあっているものを)ふたつに分けることはできやしない」ということです。

34~41行 第6連(最終連)

 原詩の行の組み立てを日本語で再現できないかとがんばってみた。

Of the beautiful Annabel Lee のリフレインを再現したい!

 35、37行目 Of the beautiful Annabel Lee の繰り返しを、わたしの訳では「それは美しいアナベル・リーだった」「それは美しいアナベル・リーの輝く瞳になった」として対応させた。「ぼくは最愛の人に語りかけた」は、原詩にはないけれど「ぼくは膝を折り寄りそった」を「海辺の墓所~」の前に持ってきたかったので、あのような組み立てにした。

 わたしが原詩の言葉をどのように操作したのか分かりやすいように、加島祥造訳を引用しておきますね。

なぜなら、月の光の差すごとにぼくは
 美しいアナベル・リーを夢みるからだ
星々のあがるごとに美しいアナベル・リーの
 輝く瞳を見るからだ――
だから夜ごとぼくは愛するアナベル・リーの傍に横たわるのだ
おゝ、いとしいひと――わが命で花嫁であるひとの
 海の岸辺の王国の墓所――
 浜辺の波の寄せてくる彼女の墓所に。

 加島祥造訳で、少し気になるところがあった。原詩では最終連で、彼女の名前が月と星に組み合わされて、2回繰り返される(月+美しいアナベル・リー、星+美しいアナベル・リーの2回)。それが加島祥造訳では「墓」の場面にもアナベル・リーが使われている。これってどうなのだろう……

 墓(墓所)は月や星のように「美」のイメージを喚起するだろうか? そのように考えると墓の場面で(詩の最後のところで)、彼女の名前を提示するのは、月と星の行で最高にたかめられた彼女の名前の美しさを曇らせてしまうことになりはしないだろうか(なんだかもったいない…)。

 38行目 down は、「膝を折る、跪く(ひざまずく)」の方向で訳した(お墓の前に跪いてアナベル・リーに語りかけるイメージ)。39行目 my life and my bride は、いろいろ迷って「人生の永遠の花嫁」と少し洒落てみた。そのまま「ぼくの命 ぼくの花嫁」でもよかったかもしれない。

 すべての行を訳し終えて、こころが納得する感じがあった(しばらく時間をおいて見直そう)。日本語の表現としては、かなり切り詰めた感じになっているけれど、これでよかったと思う。

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