ディキンソン 「真実をすべて告げよ でもそれを斜めから告げよ――」 Tell all the Truth but tell it slant —
海外の詩の翻訳シリーズ。
エミリー・ディキンソン、第16回「真実をすべて告げよ でもそれを斜めから告げよ――」 Tell all the Truth but tell it slant —(1129番 1868年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。
※ [ ]は、わたしの補足です。
※ 『対訳 ディキンソン詩集』亀井俊介編(岩波文庫)を翻訳と解説の参考にしました。
日本語訳 真実をすべて告げよ でもそれを斜めから告げよ――
真実をすべて告げよ でもそれを斜めから告げよ――
成功[上手く伝えること]は遠回りのうちにある
わたしたちのささやかな喜びには明るすぎるから
真実の素晴らしい驚きは
稲光は安心だと子供たちに
分かり易く説明する
真実はゆっりと光り輝くもの
でなければ人の眼はみな眩んでしまう――
原詩 Tell all the Truth but tell it slant —
Tell all the Truth but tell it slant —
Success in Circuit lies
Too bright for our infirm Delight
The Truth's superb surprise
As Lightning to the Children eased 5
With explanation kind
The Truth must dazzle gradually
Or every man be blind —
参考:https://en.wikisource.org/wiki/Tell_all_the_Truth...
※ 原詩は版によってカンマやダッシュ、大文字、小文字の使い分けなどに違いがある場合があります。こちらでは『対訳 ディキンソン詩集』で使われているテキストThomas H. Johnson: The Poems of Emily Dickinson, 1955に合わせました。
解説 表現と遠回り
清書されずに紙片に書きとめられていた作品。ディキンソンの詩法の一端が垣間見えるようで興味深い。「稲光」と「子供」に喩えられているように、わたしちにとって真実の輝きはあまりに明るい。それをありのまま見ること(知ること)はむつかしく、そのような真実を人々に伝えるには、なにか工夫が必要になる。
真実を表現するその手法~様式が作家の持ち味であり、言葉の自在な展開と詩行の知的な組み立て(構築)がディキンソンの歌い方の特徴かなという気がしている(どうだろうね?)。表現の「遠回り」は読者によりよく内容を伝えるための技術であり、真実は(たぶん)そのようにして歌われた詩の言葉に呼応して個人の内面から輝くものだろう。
翻訳ノート
詩が清書されなかったということは、その出来にいまひとつ思うところがあったからだろうか。メモ書きのニュアンス、さらりとした言い回しをこころがけて訳してみた。
1~4行 第1連
1行目 Tell は、ここで取りあげられているのが Truth 「真実、真理」ということから、その言葉のおもみを考慮して「告げる(告げよ)」をあててみた。2行目は日本語に訳しにくい。Success を「成功」と訳すのはいまひとつと感じるのだけれど、適切な訳語が思い浮かばない。1行目を受けての「成功」なので「上手く伝えること」と補足した。2行目 Circuit 意味としては「迂回路」くらいになるのかな(既存の訳は「まわり道」)。ここでは「遠回り」をあててみた。
5~8行 第2連
第1連で呈示された「斜めから告げよ」が「子供」への「稲光」の説明として具体的に示される。6行目 With explanation kind は「分かり易く説明する」としてみた。第1連「斜め」から「分かり易く」への展開。7行目 must は「~もの」としてそのニュアンスを表現した。8行目 blind は「眩む」とした。
メモ書きを意識した歌い方をこころがけてみたけれど上手く訳せたかな? わたしも遠回りの効能を大切にしたい。
- 次回 「わたしの火山に草が育つ」(第17回)
- 前回 「あなたが秋に訪れるのなら」(第15回)
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