土曜日の放課後だった
土曜日の放課後だった
二階の教室の窓辺で友達と立ち話をしていた
突然 電話が鳴った むかしの映画でしか聞いたことのない
ジリリリ ジリリリ という耳障りなベルの音だった
すぐ後ろの席にダイヤル式の黒い電話機が置かれていた
誰がこんなものを持ってきたのだろう? ベルは鳴りつづけた
しばらく迷ってから受話器を取った
(だまされてはいけない) 若い女の声だった
なにか言おうとしたけれど 声が出なかった
怖くなって受話器を戻した
またベルが鳴った ジリリリ
今度はすぐに受話器を取った 同じ女の声だった
(だまされてはいけない)
ここは工場です と言ってみた
(だまされてはいけない)
いったい なにをだまされるというのだろう?
受話器を握ったまま窓の外を眺めた
校庭では数人の女子生徒が輪になって
ゆっくりと右回りに回転していた
詩作メモ
わたしたちの日常の〈確かさ〉は、どれほどのものだろう? 土曜日の学校の放課後では、いくらか怪しくなってくる…… 電話(tele-phone)は、すくなからず奇妙なものだと思う。校庭で輪になって回っている女子生徒のイメージを気に入っている。
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