鞠二月二日堂

詩と芸術のブログ

ディキンソン 「わたしの火山に草が育つ」 On my volcano grows the Grass

 海外の詩の翻訳シリーズ。

 エミリー・ディキンソン、第17回「わたしの火山に草が育つ」 On my volcano grows the Grass(1677番)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。

 ※ 『ディキンスン詩集』新倉俊一訳・編(思潮社)を翻訳の参考にしました。

日本語訳 わたしの火山に草が育つ

原詩 On my volcano grows the Grass

On my volcano grows the Grass
A meditative spot —
An acre for a Bird to choose
Would be the General thought —

How red the Fire rocks below 5
How insecure the sod
Did I disclose
Would populate with awe my solitude.

 ※ 原詩は版によってカンマやダッシュ、大文字、小文字の使い分けなどに違いがある場合があります。こちらでは『対訳 ディキンソン詩集』で使われているテキストThomas H. Johnson: The Poems of Emily Dickinson, 1955に合わせました。

解説 火山とディキンソン

 火山の荒れた土地に草が育つ。そこは瞑想にふさわしい場所だという。草地に小鳥が舞い降りるとき、瞑想(雑念のない深い考え)はおおくの人々にひらかれた普遍的な思索となる(第1連)。第2連では、草地の下部の状況が歌われ、「わたし」の心理が開示される。火山の地下には Fire rocks 「火の岩(マグマ)」が赤々と熱し、土地はたえず噴火の危険にさらされている。ひとの力ではどうすることも出来ない危なっかしい場所に、「わたし」は畏怖の思いを抱く。

 畏怖:大いにおそれること。おそれかしこまること。常人を超える力が感じられて、うっかりそばに近づけないこと。

 On my volcano とはじまるこの詩を読むたびに妙に感動してしまう。ここに描写されている情景が詩人ディキンソンそのひとであるかのような気がしてくる。長い人生で詩を書きつづけること=才能とはこのようなことではないだろうか? 1エーカーは「わたし」に固有の場所ではあるれど、けっして肥沃な土地ではない。草と小鳥の小さな世界。噴火の危険が常にある不安定な世界。地中の「火の岩」は人の営みを超えるなにものかとして意識に働きかける。それは尽きることのない創作の熱源のようでもある。

火山とディキンソン

 火山とディキンソン~創作の熱源の図(参考)

翻訳ノート

 お気に入りの詩なので、時間をかけて訳した。詩行の展開~イメージの響きあいにはぞくぞくするもの(構築の美ともいえばよいか…)を感じていて、その感じが上手く表現できていればいいなと思う。

1~4行 第1連

 第1連の組み立ては、おおよそつぎのようになっているだろうか(わたしの理解です)。

1. 火山に草が育つ。植物のみの静かな世界。→ 瞑想的な場所、瞑想するのにふさわしい場所。

2. 火山に育った草地に小鳥がやって来る。 植物と動物(動き、鳴き声)の世界。→ 普遍的な思索の場所、日常にひらかれた思考。

 鳥(小鳥)の登場によって瞑想的な場所が普遍的(日常的)な光景へと移行する。3行目、鳥の登場する行は choose ということで、鳥がその場所を選ぶということなのだけれど、情景としては鳥がその場所を気に入って空から降りてきたというようなことだろうか。

5~8行 第2連

 第2連では火山の直接見えないところ~下部と「わたし」の心理が歌われる。Fire rocks 「火の岩」は地中のマグマのことだろうか。火山はマグマによってたえず噴火の危険にさらされていることから、6行目 insecure 「不安定な、危なっかしい」に展開される。

 7~8行目で、そのような火山に対する「わたし」の心理が開示される。その場所は危険で怖い所というだけではなく、 日常を超える力が感じられる特別な場所だという。これは山岳信仰などに近い感覚かもしれない。8行目 awe は「畏怖の念」と訳した。

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ディキンソン おもな日本語訳

 

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