2014-01-01から1年間の記事一覧
高校二年の春にクラス委員長に選任された。それが原因とも思えないのだが、浮遊感を伴う眩暈に悩まされるようになった。真夜中に部屋の電気を消して星空を眺めてみても、以前のようにわくわくしない。 午前の授業を無難にやりすごしたとしても午後の授業はど…
ご無沙汰しております。こちらもずいぶんと様変わりしましたね。機械仕掛けの商業都市は怖れを知らない子供のようです。 いえ、迷ったりはしませんでしたよ。並木の落とす影が行き先を指し示してくれましたから。そこから先の路地のことはよく覚えています。…
T.S.エリオット『荒地』死者の埋葬 《1》 日本語訳 解説 からのつづき(『荒地』 日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 翻訳ノート 死者(失われたものたち)を巡るイメージは鮮明で迷うことはなかった。 1~18行 春~冬~夏のパート 春のパート、…
ひさしぶりに水の街を訪れた。海抜〇メートル、黒い水の流れに帰ってきたという安堵があった。 予約を入れておいた老舗旅館「睡蓮」にむかう。街には橋がひとつもないので(どうしてだろうね?)水路で隔てられた隣の区画には、渡し船でゆくことになる。宿泊…
明るい灰色の夕暮れだった 自転車に乗って怖い家にゆく住宅街を離れた国道沿い 二階建ての民家が休耕田にかこまれて時代に見放され世間に忘れられた高度経済成長期の遺骸のようにぽつんと建っていた 草が生い茂る荒れた庭 閉め切られた雨戸不気味なシミが浮…
海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922)から「死者の埋葬」 The Burial of the Dead 日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 ※ [ ]は、わたしの補足です。「 …
海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922) から、題辞と献辞の日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 1.日本語訳 2.原文 3.解説 4.翻訳ノート ※ 『荒地』岩崎宗治訳(岩波文庫)を翻訳と解…
公園の近くで蟻の行列を見つけた じっと眺めているとがんばるぞ~ぉ と声がした ふり返ってみたけれど誰もいないあれ? 気がつくと蟻の行列も消えていた どこいった? 「消えていったものたち」の身代わりになって街を散策したやがて歩き疲れてきた 馴染みの…
海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922) 日本語訳(エリオットの目次と年譜はこちら)。 はじめに 『荒地』は、当時最先端の実験的手法、モダニズムのスタイルで描かれる。エリオットは、それぞれのパーツ(要素)を知的…
I 道は先々で分岐しているので つい迷ってしまうどれを選んでも結局は同じことだと理解したのは目的地に着いてからだった 世界は複雑なようでいて思いのほか単純なつくりになっている II 旅行の計画はいつも曖昧なものだから時間の経過もそれに合わせて自在…
海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第6回「不穏な気配の谷」 The Valley of Unrest (1845)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.詩の主題 5.翻訳ノート ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝…
海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第5回「湖、……に」 The Lake ― To ―― (1827)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.翻訳ノート 5.加島祥造の解説について ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手…
愛用の帽子を被って自転車に乗った 海へゆこういつもの道は工事中だった 迂回路の案内にしたがったむむ? 道に迷ってしまったみたい 森の小路だったこまったな…… 民家をみつけた 道を訊ねてみよう自転車では無理みたい 不安定な石段をこわごわ下ったあれ? …
胸を小さな蛇に噛まれた 救急病院に搬送された夜のむこうに ひとかたまりの黒い森が見えたそのまま息が止まってしまいそうな誘惑に こころが怯えた 夢のなかで懸命に活字を拾った 本を復元したかったランプを手許に引きよせる このページを仕上げてしまおう…
シアンクレールで一杯のコーヒーを飲むぼくたちは木炭の素描のような街に暮らしていたぼくは心臓[heart]の色を探すように生きた 不意の出来事だった 青い煉瓦の壁が歩道に現れたそして 突然 崩壊する (戸惑いは悲しみに似ている)ぼくには踏み越えてゆく…
I 紙のような薄さでパズルの隙間に消えていったピエロあら 気がつきませんでした ここで死んでいたのですか?いえ 死に乗り遅れたんです ただ それだけですよ II いつからだろう? 暗さのなかで撚られた情景だった死者たちの見忘れた夢が わたしたちの夢にす…
つよく見つめるとたちまち崩れてしまう夕暮れだった 海沿いのレストランから黒煙が昇っていた取り残されたひとがいるらしい あなたの知っているひと?世界にはさまざまな死がある 消防車の赤は好きな赤じゃない旅の途中でメガネを壊してしまった いつも臆病…
古風な旅館の渡り廊下から 冬の川の眺めを楽しんだ空想的なものは すり減ることがないという 素敵だねただときおり姿を隠してしまう どこにいったのかなあ?折り紙の匂いがした 鈴の音 壁の漆喰は淡い緑色だった眼差しは限りなくゼロに近い薄さだった 誰の死…
高台のサボテン公園から出てきた男が急勾配の階段を下りていたその途中に錆びた線路が横切っている この踏切は要注意なんだいっけん廃線に見えるだろう でもそうじゃない 油断は禁物警報器が鳴らなくても快速列車が通過することがある 危ないよ孤独と不安の…
海外の詩の翻訳シリーズ。 ライナー・マリア・リルケ Rainer Maria Rilke 『オルフェウスへのソネット』(オルフォイスに寄せるソネット) Die Sonette an Orpheus(1922) 日本語訳(第1部 I~IV、第2部 I, III, XII)。 はじめに 『オルフェウスへのソネッ…