鞠二月二日堂

詩と芸術のブログ

2015-01-01から1年間の記事一覧

ポー 「ユーラルーム 」 Ulalume 《2》 翻訳ノート

エドガー・アラン・ポー「ユーラルーム」《1》 日本語訳 解説 からの つづき(ポーの目次はこちら)。 「ユーラルーム」は語りのトーン(詩に相応しい語りの調子)をつかむのに思いのほか時間がかかった。当初、ポーの他の詩と同じ感覚で訳していたのだけど…

毛糸の帽子

みんなが毛糸の帽子を持っていた。わたしだけが、まだ持っていなかった。先日、やはり毛糸の帽子がほしくなって近所のスーパーマーケットに買いに出かけた。いろいろ迷って、チョコレート色の地に白いステッチの幾何学模様が入ったものを選んだ。 翌朝、毛糸…

ポー 「ユーラルーム 」 Ulalume 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第7回「ユーラルーム」 Ulalume (1847)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝わるように表現を工夫しながら、自由なイメ…

ディキンソン 「鳥たちの夏よりさらに晩く」 Further in Summer than the Birds

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第3回「鳥たちの夏よりさらに晩く」(鳥たちよりもさらに夏おそく) Further in Summer than the Birds (1068番 1866年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解…

不思議だと思いませんか?

不思議だと思いませんか?世界はわたしたちにむかってなにも説明しません世界がわたしたちに理解されないと嘆くこともありません世界はなにかを問いかけることがなく なにかを探すこともしませんそれなのに (それなのに……)わたしたちはいつだって理由を探…

T.S.エリオット 「荒地」 チェスのゲーム A Game of Chess 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922)から「チェスのゲーム」 A Game of Chess 日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 ※ [ ]は、わたしの補足です。「 」…

先生

午後四時十五分、作家のO先生と都心から特急列車〈てまり〉に乗った。Y駅で降車。はじめて訪れる街だった。先生は何度か訪れたことがあるらしかった。長く伸びてゆく影を追いかけるようにポプラの並木道を歩いた。 大きな噴水のある公園のベンチに先生と並…

蛇遣い

ひとつの研究が終わると、どうにも落ち着けない。休暇もそこそこに、あらたな研究課題を模索した。それまでのノートを読み返して選んだのは「蛇遣い」だった。 作家Mは廃校になった中学校の講堂を書斎として使っていた。十万冊の蔵書と三万枚のレコードがひ…

情景

白いリンネルのシャツを着て きみは直立した姿勢のまま夢を見た真昼の青空に休むことなく回りつづけていたのは巨大な風車だった地中深くから汲みあげられた水が乾いた大地の球根を育てた 遠い街だった 骸骨たちの乗り合いバスが次の交差点を曲がるとき水たま…

T.S.エリオット 詩と人生~年譜

T.S.エリオット Thomas Stearns Eliot (1888-1965) イギリス(生まれはアメリカ合衆国)の詩人、劇作家、評論家。1922年に発表された代表作『荒地』は、後の文学界に大きな影響を与えた。 詩 目次 エリオットの詩の日本語訳(原詩、解説、翻訳ノート付き)…

T.S.エリオット 「ゲロンチョン」 Gerontion 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット「ゲロンチョン(小さな老人)」 Gerontion (1920)日本語訳と解説(エリオットの詩の目次と年譜はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 ※ 原詩の行の配列をほぼ維持して訳しています。内容の把握がむつかしいとこ…

箱男

箱男は走ることにむいていない だから今日もゆっくり歩く夏は暑く 冬は寒い でも住処をなくす心配だけはしなくていい箱男の半透明の小さな窓にも夕暮れの光が差し込む 鴉が鳴いた手帳を開き思案する あなたは涙の隠し場所を執拗に探していた誰からも隠されて…

ディキンソン 「わたしは誰でもないひと! あなた 誰?」 I'm Nobody! Who are you?

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第2回「わたしは誰でもないひと! あなた 誰?」 I'm Nobody! Who are you? (288番 1861年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.翻訳ノート ※ [ ]は、…

ディキンソン 「わたしは〈美しさ〉のために死んだ――けれど」 I died for Beauty — but was scarce

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第1回「わたしは〈美しさ〉のために死んだ――けれど」 I died for Beauty — but was scarce (449番 1862年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.翻訳ノー…

レエン・コオト

長椅子の上の眠りは温かなチョコレートのように溶けて、わたしたちの夜が来る。そうだ! 大切な約束があった。 いくつもの小さな矩形に仕切られた陳列棚をじっと見つめた。なにが収められているのかは暗くてよく分からない。墨色のヴェールをまとった不定形…

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