つよく見つめるとたちまち崩れてしまう
つよく見つめるとたちまち崩れてしまう
夕暮れだった 海沿いのレストランから黒煙が昇っていた
取り残されたひとがいるらしい あなたの知っているひと?
世界にはさまざまな死がある 消防車の赤は好きな赤じゃない
旅の途中でメガネを壊してしまった いつも臆病者だった
いちばん星を撃ち落とそうと海の底から狙っているものがいる
不器用な塗り絵のように 輪郭線が乱雑な筆跡で消されてゆく
海岸線に沿って歩いた 明日はビタミンの錠剤を買ってみよう
それがいい やがて行き先の方から歩み寄ってくれるだろう
詩作メモ
平穏な日々の暮らしのなかから、ふと見えてきたのは海辺と旅と黒煙の情景だった。それはいつまでも、わたしのこころに残りつづけた。きれぎれのイメージを表に開くことなく、そのまま言葉を積みかさねていった。「つよく見つめるとたちまち崩れてしまう」のだから、これでよかったと思っている。
この詩は寺神戸亮のヴァイオリンでバッハ『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』を聴きながら仕上げた。
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