灰の列車
ずいぶんと長いこと歩いてきた
これから どちらに歩いていけばいい?
ぼくたちは忽然と消えたように思われるだろう
大地の裂け目から地下へと降りていった
行き着いた先は廃棄された地下鉄のトンネルだった
巨大な炎に焼かれたように すべてが黒く煤けていた
かすかな空気の流れを感じた しばらく待ってみることにした
やがて 闇のなかを一両編成の列車がやってきた
燃えつきて歪んだ鋼鉄と降り積もった灰の列車だった
軋みながらドアが開くと ひとりの乗客が列車から降りてきた
中折れ帽を目深にかぶった男の顔は深い影に覆われていた
男は平坦な声で 列車に乗ることは出来ない と言った
なぜ乗れないのですか? と訊ねることはしなかった
男の三つ揃いは ほんの少しも灰で汚れてはいなかった
仲間たちと肩を寄せあい闇に消えてゆく列車を見送った
皆が同じことを考えていた いつもそうだった
列車に乗れなければ 歩いてゆくほかないだろう
ほかにどうすればいい?
詩作メモ
さまざまな人生があり、さまざまな冒険がある。第1面から(順当に)第2面にすすんでゆく人生=冒険だけではなくて、地下1面へとすすんでゆく選択肢もあるだろう。地下から地上へと吹き上がる〈火炎〉の意味をわたしは知りたい。
「灰の列車」から降りてくる男の描写にずいぶんと時間を使った。男はどこの駅から列車に乗ったのだろう、男はどこの駅で列車を降りるのだろう。いつかこの男の物語を語ってみたい。
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