メランコリック・ミステリー・ゲーム
公園の近くで蟻の行列を見つけた じっと眺めていると
がんばるぞ~ぉ と声がした ふり返ってみたけれど誰もいない
あれ? 気がつくと蟻の行列も消えていた どこいった?
「消えていったものたち」の身代わりになって街を散策した
やがて歩き疲れてきた 馴染みの食堂〈詩仙庵〉でお昼にしよう
図書館で調べ物をして 〈楚楚〉でチーズケーキを食べよう
〈風信子通り〉のアーチを見上げて立っていた
つり下げられた時計の時刻は三時五十五分 その前に見た時計は
午後四時一分だった 過ぎ去ったはずの時間が未来になった
アスファルトに落ちる影が妙によそよそしく思われた
どうしたのかな? 通りをひとつ間違えていることに気がついた
足早に来た道を引き返した ほら 世界が丸くなった
街のはずれの貴婦人のような洋館がお気に入りだった
大きなビルは好きじゃないから みんな壊れてしまえと祈った
ひとつの時代が喧噪のなかであんなふうに見えていた
誰かの携帯電話が鳴っていた もしもし 商談中です
青果店〈三角屋〉で紙袋いっぱいのレモンを買った 商談成立
うきうきした気分でアパートにむかった
〈河童坂〉から地下道を抜けた 視界が白く色褪せた
そんなとき誰に遠慮することなく軒下の暗さを許せる気がした
より道の誘惑をふりきる楽しみが まだ残されている
ベランダに出しておいた観葉植物の鉢を室内に戻した
逆光の街だった あのとき見失った悲しみが遅れてやって来た
ケルトでお湯を沸かす 手帳に明日の予定を書き込んだ
詩作メモ
小さな憂鬱と孤独の眼差しから都市を巡ってみた(都市の日常を背景にして「ひとり遊び」を描いてみた)。
固有名詞の読みは以下の通りです(必要ないかもしれませんが…)。
詩仙庵 しせんあん
楚楚 そそ
風信子通り ヒヤシンスどおり
三角屋 みかどや
河童坂 かっぱざか
ご案内
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