鞠二月二日堂

詩と芸術のブログ

箱男

箱男は走ることにむいていない だから今日もゆっくり歩く夏は暑く 冬は寒い でも住処をなくす心配だけはしなくていい箱男の半透明の小さな窓にも夕暮れの光が差し込む 鴉が鳴いた手帳を開き思案する あなたは涙の隠し場所を執拗に探していた誰からも隠されて…

ディキンソン 「わたしは誰でもないひと! あなた 誰?」 I'm Nobody! Who are you?

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第2回「わたしは誰でもないひと! あなた 誰?」 I'm Nobody! Who are you? (288番 1861年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.翻訳ノート ※ [ ]は、…

ディキンソン 「わたしは〈美しさ〉のために死んだ――けれど」 I died for Beauty — but was scarce

海外の詩の翻訳シリーズ。 エミリー・ディキンソン、第1回「わたしは〈美しさ〉のために死んだ――けれど」 I died for Beauty — but was scarce (449番 1862年)日本語訳と解説(ディキンソンの目次と年譜はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.翻訳ノー…

レエン・コオト

長椅子の上の眠りは温かなチョコレートのように溶けて、わたしたちの夜が来る。そうだ! 大切な約束があった。 いくつもの小さな矩形に仕切られた陳列棚をじっと見つめた。なにが収められているのかは暗くてよく分からない。墨色のヴェールをまとった不定形…

青の故郷と糸の鶴

高校二年の春にクラス委員長に選任された。それが原因とも思えないのだが、浮遊感を伴う眩暈に悩まされるようになった。真夜中に部屋の電気を消して星空を眺めてみても、以前のようにわくわくしない。 午前の授業を無難にやりすごしたとしても午後の授業はど…

ご無沙汰しております

ご無沙汰しております。こちらもずいぶんと様変わりしましたね。機械仕掛けの商業都市は怖れを知らない子供のようです。 いえ、迷ったりはしませんでしたよ。並木の落とす影が行き先を指し示してくれましたから。そこから先の路地のことはよく覚えています。…

T.S.エリオット 「荒地」 死者の埋葬 The Burial of the Dead 《2》 翻訳ノート

T.S.エリオット『荒地』死者の埋葬 《1》 日本語訳 解説 からのつづき(『荒地』 日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 翻訳ノート 死者(失われたものたち)を巡るイメージは鮮明で迷うことはなかった。 1~18行 春~冬~夏のパート 春のパート、…

水の街 序

ひさしぶりに水の街を訪れた。海抜〇メートル、黒い水の流れに帰ってきたという安堵があった。 予約を入れておいた老舗旅館「睡蓮」にむかう。街には橋がひとつもないので(どうしてだろうね?)水路で隔てられた隣の区画には、渡し船でゆくことになる。宿泊…

怖い家

明るい灰色の夕暮れだった 自転車に乗って怖い家にゆく住宅街を離れた国道沿い 二階建ての民家が休耕田にかこまれて時代に見放され世間に忘れられた高度経済成長期の遺骸のようにぽつんと建っていた 草が生い茂る荒れた庭 閉め切られた雨戸不気味なシミが浮…

T.S.エリオット 「荒地」 死者の埋葬 The Burial of the Dead 《1》 日本語訳 解説

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922)から「死者の埋葬」 The Burial of the Dead 日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 ※ [ ]は、わたしの補足です。「 …

T.S.エリオット 「荒地」 題辞と献辞 Epigraph and Dedication

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922) から、題辞と献辞の日本語訳と解説(『荒地』日本語訳だけをまとめて読みたい方はこちら)。 1.日本語訳 2.原文 3.解説 4.翻訳ノート ※ 『荒地』岩崎宗治訳(岩波文庫)を翻訳と解…

メランコリック・ミステリー・ゲーム

公園の近くで蟻の行列を見つけた じっと眺めているとがんばるぞ~ぉ と声がした ふり返ってみたけれど誰もいないあれ? 気がつくと蟻の行列も消えていた どこいった? 「消えていったものたち」の身代わりになって街を散策したやがて歩き疲れてきた 馴染みの…

T.S.エリオット 「荒地」 The Waste Land

海外の詩の翻訳シリーズ。 T.S.エリオット『荒地』 The Waste Land (1922) 日本語訳(エリオットの目次と年譜はこちら)。 はじめに 『荒地』は、当時最先端の実験的手法、モダニズムのスタイルで描かれる。エリオットは、それぞれのパーツ(要素)を知的…

道は先々で分岐しているので

I 道は先々で分岐しているので つい迷ってしまうどれを選んでも結局は同じことだと理解したのは目的地に着いてからだった 世界は複雑なようでいて思いのほか単純なつくりになっている II 旅行の計画はいつも曖昧なものだから時間の経過もそれに合わせて自在…

ポー 「不穏な気配の谷」 The Valley of Unrest

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第6回「不穏な気配の谷」 The Valley of Unrest (1845)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.詩の主題 5.翻訳ノート ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝…

ポー 「湖、……に」 The Lake — To ——

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第5回「湖、……に」 The Lake ― To ―― (1827)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.翻訳ノート 5.加島祥造の解説について ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手…

自転車とチョコレート

愛用の帽子を被って自転車に乗った 海へゆこういつもの道は工事中だった 迂回路の案内にしたがったむむ? 道に迷ってしまったみたい 森の小路だったこまったな…… 民家をみつけた 道を訊ねてみよう自転車では無理みたい 不安定な石段をこわごわ下ったあれ? …

胸を小さな蛇に噛まれた

胸を小さな蛇に噛まれた 救急病院に搬送された夜のむこうに ひとかたまりの黒い森が見えたそのまま息が止まってしまいそうな誘惑に こころが怯えた 夢のなかで懸命に活字を拾った 本を復元したかったランプを手許に引きよせる このページを仕上げてしまおう…

揺籠と残酷

シアンクレールで一杯のコーヒーを飲むぼくたちは木炭の素描のような街に暮らしていたぼくは心臓[heart]の色を探すように生きた 不意の出来事だった 青い煉瓦の壁が歩道に現れたそして 突然 崩壊する (戸惑いは悲しみに似ている)ぼくには踏み越えてゆく…

夢のパズル

I 紙のような薄さでパズルの隙間に消えていったピエロあら 気がつきませんでした ここで死んでいたのですか?いえ 死に乗り遅れたんです ただ それだけですよ II いつからだろう? 暗さのなかで撚られた情景だった死者たちの見忘れた夢が わたしたちの夢にす…

つよく見つめるとたちまち崩れてしまう

つよく見つめるとたちまち崩れてしまう夕暮れだった 海沿いのレストランから黒煙が昇っていた取り残されたひとがいるらしい あなたの知っているひと?世界にはさまざまな死がある 消防車の赤は好きな赤じゃない旅の途中でメガネを壊してしまった いつも臆病…

死の国

古風な旅館の渡り廊下から 冬の川の眺めを楽しんだ空想的なものは すり減ることがないという 素敵だねただときおり姿を隠してしまう どこにいったのかなあ?折り紙の匂いがした 鈴の音 壁の漆喰は淡い緑色だった眼差しは限りなくゼロに近い薄さだった 誰の死…

急勾配の階段だった

高台のサボテン公園から出てきた男が急勾配の階段を下りていたその途中に錆びた線路が横切っている この踏切は要注意なんだいっけん廃線に見えるだろう でもそうじゃない 油断は禁物警報器が鳴らなくても快速列車が通過することがある 危ないよ孤独と不安の…

リルケ 「オルフェウスへのソネット」 Die Sonette an Orpheus

海外の詩の翻訳シリーズ。 ライナー・マリア・リルケ Rainer Maria Rilke 『オルフェウスへのソネット』(オルフォイスに寄せるソネット) Die Sonette an Orpheus(1922) 日本語訳(第1部 I~IV、第2部 I, III, XII)。 はじめに 『オルフェウスへのソネッ…

きみの眼差しがぼくに接ぎ木した

きみの眼差しがぼくに接ぎ木した実存を称えて歌う思索の階段をどこまで昇ればいい? 人間存在を俯瞰する実存哲学の記念碑は 空のきみに届けとぼくは願った (自己の消滅 残り香 神の名前) 春だった 童話の大地に育つ若葉をぼくは愛そうとしたそのとき 永遠…

ポー 「夢のなかの夢」 A dream within a dream

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第4回「夢のなかの夢」 A dream within a dream (1849)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.翻訳ノート ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の詩として上手く伝わるように表…

鞠二月二日堂

ブログのご案内。 集合住宅 鞠二月二日堂 まりにがつふつかどう とある小学校の跡地に残された煉瓦づくりの建物。現在は改修されて集合住宅として使われている。 居住者 夜乃初音 よるのはつね 夜乃琴音 よるのことね 鞠 紫月 まりしづき (旧姓花 谷) 記事…

ポー 「病める王宮」 The Haunted Palace

海外の詩の翻訳シリーズ。 エドガー・アラン・ポー、第3回「病める王宮」(魔の宮殿、狂える城) The Haunted Palace (1846)日本語訳と解説(ポーの目次はこちら)。 1.日本語訳 2.原詩 3.解説 4.詩の構成 5.翻訳ノート ※ ポーの詩のエッセンスが日本語の…

昨夜 夢に見た光景だけが

昨夜 夢に見た光景だけが真実のように思われたパラフィン紙のように薄い掌ほどの雪の結晶が舞っていた指先に触れると少しの冷たさも残さずに幻のように消えた川沿いの道を友人と歩いていたはずだったいつからひとりなのだろう? 水の音を聞こう 河川敷に下り…

土曜日の放課後だった

土曜日の放課後だった二階の教室の窓辺で友達と立ち話をしていた突然 電話が鳴った むかしの映画でしか聞いたことのないジリリリ ジリリリ という耳障りなベルの音だったすぐ後ろの席にダイヤル式の黒い電話機が置かれていた誰がこんなものを持ってきたのだ…

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